目を閉じて抱いて
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実光×セオドア(R-18)
2019/5/13 00:00
🔞 この作品はR-18です!この先自己責任でお進みください!
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セオドアとは上を着たままセックスをする。お互いに身体を見たり、触られたりするのはあまり好まないからだ。俺の身体はそこかしこが傷痕だらけだし、セオドアには色々と触れてはいけない部分が多い。たとえばそのタートルネックの下はどうなっているのだろう、など疑問は尽きないけれど、たとえ肉体関係にあろうとそれを尋ねるのはご法度なのである。
場所はたいてい、今みたいに深夜の自分の部屋だけれど、酔った勢いだとかでリビングのソファでそのまま雪崩れ込むこともある。終わったらほどなくしてセオドアは淡々と帰り支度を始める。そのまま泊まることはめったにない。
「こーら、集中してる?」
ぐり、とセオドアが大きめに動いた。腰に甘い痺れが伝わり、息が一瞬できなくなる。粘膜が不意に音を立てて耳を弄ぶ。
「ぁ……、あっ、セオ、ド、それ、」まな板に寝そべった魚のように、ぱくぱくと口が開く。
「せっかく動いてもらってるのに、何もしないなんて失礼なんじゃない?」セオドアは膝立ちでこちらを見下ろしてニマニマと笑っていた。
「ごめ、気持ち、よくて」
おぼつかない指先でセオドアの性器を握る。反対の手は細く白い腰(セオドアは腰が弱い)に伸ばして、手のひらで円を描くようにさするなどした。
「ん……、ぁあ、そう、ン、ふふ、」セオドアは目を閉ざし、くすぐったそうな息を漏らした。
「なに、笑ってるんだよ」触り方がよくなかったかと、右手を少し強めに、意識して扱いてみる。
セオドアは変わらず腰を揺らしながら笑った。「実光はかわいいなあと思って」
行為の主導権を握っているからか、セオドアはいたく機嫌が良さそうだった。俺も悪い気はしない。こんな緩慢な刺激では到底達することもできないのだが、それはお互いわかりきった上での遊戯だ。
セオドアの手は、最近いっそう伸びてきた俺の髪をシーツの上で梳いたり、耳殻をくにくにと揉んだり、Tシャツの上から俺の乳首を撫ぜるように擦ったりなどしている。気まぐれそのものだ。もどかしい愛撫に物足りなくなると、だんだん身体じゅうが性感帯になっていってしまいそうで、ぐっと堪える。
「ふふ…ほんとにかーわいいなあ、もう」顔をななめに背けても、彼の赤く細い目線を感じる。「素直になったほうが気持ちいいのにねぇ?」
「……」
子ども扱いに微妙にかちんときて、シーツに肘をついて腰を突き上げてみる。いつも細められているまぶたが一瞬見開かれる。
「あン!ッこの!」
「んな、ア、はっ、」
不意打ちに嬌声が出たのが腹立たしかったのか、セオドアは対抗するように腰をグラインドしはじめた。ぬちっ、ぬちっ、とたまらなく淫靡な音が結合部から響く。
「これ、やば、く、ぁ、」
止めたいのに腰が勝手に動いていく。緩く、ばらばらだったふたつのリズムが、重なってひとつの頂点へ昇りつめるものへと変わっていく。息を吐いて休むひまがない。これはやばい、いってしまう。だめだ、まだ、
「はぁ、あ、セオド、ア!」
すんでのところで両腕をセオドアの腰と背に回し、こちらに引き寄せる。
「あで」セオドアはさほど慌てた様子も見せず、両手をついて衝突を防いだ。発散しきれなかった熱を孕む身体は若干不満げに身じろぎする。「なに?」
「なあ、服、脱いで。俺も脱ぐから」
「っ、なん、で」当たる角度が急に変わったのか、セオドアの声は快楽と圧迫を押し殺したものに変わった。
荒い呼吸を繰り返す口でとっさに言葉を紡いだ。「身体、くっつけたい」
「……」
「……」
熱く、もやついた意識の中で互いの吐く息がやけに耳に響いた。怒られるだろうか、とじっと待った。
「わかった」セオドアはぽつりと答えた。「でもあんまりあちこち触らないで。知ってると思うけど」
「う…ん」うわの空で了承した。さきほどは触れと言われたのもあり、二律背反の調整に頭を悩ませていた。ただでさえ快楽を追い求めると衝動はどんどんエスカレートしていくのに。そうこうしてるうちに、ゆっくりとセオドアの腰が浮き、長らく彼の中に埋まっていた性器が少し冷えた空気にさらされていく。
「じゃあ電気、消してくるね」
「あ…悪い…」壁際のスイッチへと歩いていく姿を見送り、自分の上半身のことを考えた。
「確かに、見苦しいよな、こんな傷だらけの…」
「ううん。違う」
「俺のほうがね、そうしたいんだ」見えなくなる一瞬、セオドアはこちらを見て柔らかく、眉を下げて微笑んだ。
セオドアが選んだのは常夜灯ではなく完全な闇だった。 互いに黙って肌着まで脱ぎ、衣摺れ音が止むとそろそろとセオドアがベッドに上がってくる気配がした。部屋が真っ暗になってもあの赤い目だけ光っているのではないかという夢想がふとよぎったが、当然そんなことは起こらなかった。
「あ、あと、ケータイもなるべく点けないで」セオドアがひそめた声で言った。
「ああ…」手探りで枕元から探り当てて、万が一の着信でも俺たちの身体を照らさない位置に移す。コト、と遠くで聞こえると、セオドアが肩の強張りを緩めたのがすぐそばでわかった。その肩を、なるべく指先で触れないように抱きすくめた。いたって普通の人間の温度と、鼓動がした。温かかった。セオドアはゆっくりと深い呼吸をしていた。
「あー、なんかわかる気がする。実光が身体くっつけたいって言ったの」どこかのんびりとした語調の唇を見つけて、自分のと合わせた。
闇の中でぬるりと出入りする舌を追いかけるうちに、妙に生々しい感触で自分がやけに興奮していることに気づいた。いつのまにか俺の手をシーツに縫い止めていたセオドアの手がそっと俺を押して、セオドアはベッドに背を預ける姿勢になった。
「ん…いいよ、来て…」
セオドアの親切か、暗闇で俺を手取り足取り入口へと導いてくれる。そういう事をされるとなべて男は辛抱たまらないのだが、まあ、わかってやってるのだろうなと思った。光が消えてから時間の経過もどうにもわからず、もしかしたら乾いているかもという心の隅の杞憂をよそにぐちゅり、という水音と共に腰が進んでいき、ふたり同時に息を呑んだ。
「…あ、ッ、はあ……ア、すご、…これ…」
「あッ、……ぅ、ぁン、」
ゆっくりと出し入れしていると闇の中で確かな熱とねばつきがまとわりついてくる。視覚がなくなっただけで、繋がっている場所以外の感覚が全て吹っ飛んでしまったような気がした。がむしゃらにセオドアに覆いかぶさり、上半身をぴったりと重ねながら腰を動かした。自分の思い通りになる姿勢ではなかったが、今の俺はこのほうがよかった。激しく動けはしないが、ある程度冷静に、狙ったふうに動ける。それに身体の色々なところが擦れて、気持ちがいい。
「! それ、ンぅ、あっ!いい、あッ」
セオドアの喘ぎ声が徐々に高くなってきた。目も次第に慣れてきて、快楽に跳ねる白い身体がぼんやりと見えてきた気がした。俺はさっき言われたことを思い出してどうにかこうにか手を動かそうとしたが、またセオドアにしっかり絡め取られていることに気づいた。
「セオドア……っ手が……」
「んん…ッ、だ、め……このまま………」
手を握る力が強まった。それなら、と単純な思考は身体のテンポを上げていく。さんざん上でじらされたため、終わりはもうすぐそこにあった。
「あぁ、は、ひぁ、あッ!あ、おれ、もう、だめ、い、ッ!!」
セオドアが不意に息を詰まらせると、腹と腹の間で生暖かい感触が迸った。そのすぐ後に俺も腰を数度打ちつけて、中に欲を吐き出した。身体中汗まみれだった。頭が真っ白になる中で、ほんの少しためらいがちにセオドアの手がはなされ、俺の背中に回ってきた。あ、俺も、手を、伸ばさなきゃ。けれどもそのやさしい感触を最後に、俺の意識はしばし闇へ消えた。
「あの、なんで明かり消したのか、聞いても、大丈夫か」
快い気だるさの中で口に出した瞬間、ああ、これは後で発言したことを自己嫌悪する類のものだと思った。なにが賢者モードだ、ただのバカ野郎だ。ベッド向かいのソファに座るセオドアは表情を変えずにタバコの煙を吐き出した。いわゆるピロートークに入る気がするが、シーツに灰が落ちるのが嫌なのでセオドアにはいつも場所を移ってもらっている。
既にタートルネック姿に戻っているセオドアはちらりとこちらを見た。「実光は、洗面所の鏡で自分の身体が目に入るたび、感じるものはなにもないの?」
「それは………あ、る」詰問されている気がして思わず背を丸めた。
「うん。俺もおんなじ。むしろ実光より気が滅入って、気分じゃなくなったら嫌だったから。それだけ。ほら、俺、豆腐メンタルだからさ」セオドアはへらりと笑った。
「そっか……」
「それより、ありがとね」
「え、何が?」
「最後。俺に触らないでいてくれてさ」
「さわ、え?」俺は一瞬あっけにとられた。てっきり、それも途中で失敗したかと思っていたからだ。
「いっっつも裸がいいって言われて真っ暗の中でやるまではいいんだけど、必ず最後にどうでもよくなっていろいろ触ってくるのが多いんだよね。いやでも、俺もさっきはそうなっちゃってて、悪かったよ」セオドアはぺこりと頭を下げた。
「いや……俺の身体は気にしなくていいって、全然」
「そうなの?」セオドアは首を傾げた。
「そうなの」
俺はベッドを降りてセオドアを抱きすくめた。セオドアは何を思ったかシャツ越しに背中をぽんぽんと撫でてくる。
「よし、よし。いい子いい子」
「……」
「寂しがりだねえ、実光は」
「何が正解なんてさ」
「ん?」
「わかんないよな。人とのやりとりなんて」
「ん。そうだねえ」
「……」
目を閉じた。秘密と過去とを覆う薄布ごしにも、熱をちゃんと感じることが、できている。今夜はあと少しだけこの温もりを感じていたいと、そんな感傷的なことを思った。
了